知っとこピアノ豆知識集(007)

ピアノはなぜ黒いのか?


日本のピアノ(黒)
中村大三郎作:ピアノ
これも日本の常識が世界の不常識(?)の部類の話になります。最近、同名の本(「ピアノはなぜ黒いのか」斉藤信哉著:幻冬舎新書)が出版されて話題になりました。この本にかなり詳しく理由が述べられております。この本からの受け売りですが、簡単に纏めました。ピアノはヨーロッパで生まれたのは前述001の通りです。元々チェンバロ(ハープシコード)が親になりますが、そのボディーは木目か緑色や赤色に塗られたボディーに金色の装飾を施したものがほとんどで黒いものは殆どありません。ピアノはその後多くの新技術を取り入れて進化して行くわけですが、ボディーの色は一貫して木目でした。ヨーロッパの人々はこうしたピアノの色と外装の歴史を200年にもわたって見て来ました。だからヨーロッパではピアノは木目のものと言うのが常識になるのは当然でした。ところで日本で最初に出来たピアノの外装はどんな仕上げだったのでしょうか?調べてみると初期の黒塗りピアノの塗料には殆どの場合、日本の伝統工芸の漆(ウルシ)が使われていました。湿気の多い日本ではヨーロッパと同じ木目仕上げは適さないと考えられたのかも知れません。しかもピアノは超高級品ですので、漆だったら湿気に強く高級感もあって、正にうってつけの塗料だった訳です。これが、日本のピアノの色が黒になった最初の理由です。その後、ヤマハとかカワイ等がピアノ生産を競い合う中で、一時木目調の生産も行われましたが、木目ピアノを作るには化粧板という薄く削いだ木目の板をピアノの表面に貼り付けて行きます。しかもピアノ全体の木目模様を合わせねばなりませんからとても手間がかかります。一方黒いピアノでは木目を合わせる必要がありません。しかも石油化学の発達により、ウルシに代わるポリエステル等の黒色塗料が性能も上がり価格もとても安くなりました。こうして高度成長期の急速な需要の増加に応えるべく、二つのメーカーがコストダウンの為に採用した黒塗りのピアノはその後、あっと言う間に普及して行きました。これが日本のピアノが黒色になった二つ目の理由と言えます。つまりピアノは黒いものと言う日本の常識が出来上がる原因をつくったのは日本のピアノメーカーだと言えます。世の中の製品で、車や電話など最初は黒色が常識だったものがライフスタイルの変化と共にカラフルになって来ております。ピアノはそう言う意味ではなんと保守的な製品なのでしょうか!

西洋のピアノ(木目茶)
ルノアール作:ピアノに向う二人の若い娘